子どもの情緒不安

 

適切な幼児教育は後の
人間形成において大変重
要であると考えています
が注意していただきたい
ことがあります。
幼児教育は完璧な育児や
教育を推奨するものでは
ないということです。


 ・愛情が第一を忘れない
 ・他の子どもと比較をしない
 ・完璧主義にならない
 ・結果を期待しすぎない
 ・ゆったりとした心を持つ
 子どもへの過剰な期待は
 親子共に大きなストレス
 になる可能性があります。
 ゆったりと構え、少しくら
 い上手くいかなくても
 「まぁ、いっか。」
 位に考えられることが幼
 児教育を続けられるポイ
 ントになります。 

子どもの情緒不安  はやし浩司先生の子どもの問題・悩みQ&A

はやし浩司先生●静岡県Y市の、YNさん(母親)から、子どもの情緒不安についての相談をもらった。よく誤解さ


れるが、情緒が不安定だから、情緒不安というのではない。心の緊張感がとれない状態を、情
緒不安という。

心が緊張しているときに、不安や心配が入り込むと、その不安や緊張を解消しようと、子ども
の心は、一挙に不安定になる。情緒が不安定になるのは、あくまでも、その結果でしかない。

だから子どもが情緒不安症状を示したら、何が、どう作用し、そしてなぜ、心が緊張状態になる
かを、知る。たいていは、愛情問題がからんでいるとみるが、恐怖症、神経症など、何かの大
きなショックが原因で、心が緊張状態になることもある。

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こんにちは。五歳の娘についての相談です。

今年四月に年中で家の目の前にある幼稚園に入園し、二か月ほどは楽しそうに通っていて、
新しい友達もしょっちゅう家に誘うなどして、順調にみえました。

が、ある日いつものように園まで送ると、先生を見たとたん泣き出し、「帰る」と、おお泣きし、そ
の日から園内ではすごく情緒不安定になり、先生の話によれば、なんでもないのに泣き出した
り、人がわ〜っと集まると泣き出し、一日中先生と手をつないでいて、給食も自分の席では座
れず、先生のそばにいないと、不安で不安でしょうがないようです。  

娘に理由を聞くと、イロイロ言うのですが、「誰々が怖いから」「牛乳が飲めないから」「折り紙が
できないから」と、聞くたびに理由が変わります。

毎日、幼稚園行きたくないとか、やめるとか言っていたのですが、無理をして連れて行っていま
した。
 
一度体育参観で様子を見たときは、ショックでした。まず、顔つきがいつもと全く違うのです。

終始オドオドした目つきで、先生と少し手が離れだけで、明らかにビクビクした目つきになり、
泣きはらした真っ赤な目で、その場にいるだけで必死な様子でした。
 
娘は不器用なほうだし、遊具で遊ぶのも(鉄棒など)苦手なのですが、今までは、少し、できた
だけで、親が褒めていたので、娘は多分幼稚園に入るまで、自分が周りに比べて、何でも出来
るほうだと思っていたと思うのですが、それが違うと分かり、イヤになってしまったのかな?、と
も思いました。

夏休みの間に、鉄棒で前周りができるようになり、二学期はそれをきっかけに幼稚園の鉄棒を
楽しみに、通っていたのですが、一〇月中気管支炎になり、何日か休んだのを多分きっかけと
して、また不安定になってきました。

朝行く時は大丈夫だけど、園について、私と別れる頃になると泣き出し、クラスの子に誘われ
ても返事もできず、ひきつった顔をしています。

ここ何日かは、また行きたくないと言い出しました。
 
一度夏休み明けに、心配していたのに、損したな〜と思ってしまうほど、あっさり幼稚園でくつ
ろいだ様子で通えていたので、一学期の時のように「ガンバレガンバレ」と無理に通わせたほう
がいいのか、無理させずしばらく気のすむまで休ませた方がいいのか、悩んでいます。
 
はやし先生のページを読んで思い当たったのですが、幼稚園に入るか入らないか……という
時期から、昼寝をしたがらなくなり、理由を聞くと「怖い夢をみるから」というのです。最近も言い
ます。悪夢を見ているということですよね? 寝ている時まで不安な気持ちなのでしょうか?
 
二歳半の弟がいます。私にべったりで、上の娘を抱っこしてなだめていると、怒って割り込んで
きます。上の娘は体が学年で一番大きく重いので、つい背中に乗られると、「重いからやめて」
と言ってしまったり、聞き分けがいいので、何でも我慢させてしまっていたのかもしれないと、後
悔することが、たくさんあります。
 
でも私は、娘のこれからの事を前向きに、どうしたら娘にとって一番いいのかを考えたいので
す。きびしく具体的なアドバイスをお願いします!

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まず、子どもの情緒不安について、以前、
書いた原稿(発表済み)を、参考にしてほしい。

(1)情緒不安
(2)欲求不満
(3)分離不安
(4)基底不安

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(1)子どもの心が不安定になるとき 

●情緒が不安定な子ども

 子どもの成長は、次の四つをみる。?精神の完成度、?情緒の安定度、?知育の発達度、
それに?運動能力。このうち情緒の安定度は、子どもが肉体的に疲れていると思われるとき
をみて、判断する。運動会や遠足のあと、など。

そういうときでも、ぐずり、ふさぎ込み、不機嫌、無口(以上、マイナス型)、あるいは、暴言、暴
力、イライラ、激怒(以上、プラス型)がなければ、情緒が安定した子どもとみる。子どもは、肉
体的に疲れたときは、「疲れた」とは言わない。「眠い」と言う。子どもが「疲れた」というときは、
神経的な疲れを疑う。子どもはこの神経的な疲れにたいへん弱い。それこそ日中、五〜一〇
分、神経をつかっただけで、ヘトヘトに疲れてしまう。

●情緒不安とは……?

 外部の刺激に左右され、そのたびに精神的に動揺することを情緒不安という。二〜四歳の
第一反抗期、思春期の第二反抗期に、とくに子どもは動揺しやすくなる。

 その情緒が不安定な子どもは、神経がたえず緊張状態にあることが知られている。気を許さ
ない、気を抜かない、周囲に気をつかう、他人の目を気にする、よい子ぶるなど。その緊張状
態の中に、不安が入り込むと、その不安を解消しようと、一挙に緊張感が高まり、情緒が不安
定になる。

症状が進むと、周囲に溶け込めず、引きこもったり、怠学、不登校を起こしたり(マイナス型)、
反対に攻撃的、暴力的になり、突発的に興奮して暴れたりする(プラス型)。

表情にだまされてはいけない。柔和な表情をしながら、不安定な子どもはいくらでもいる。この
タイプの子どもは、ささいなことがきっかけで、激変する。母親が、「ピアノのレッスンをしよう
ね」と言っただけで、激怒し、母親に包丁を投げつけた子ども(年長女児)がいた。また集団的
な非行行動をとったり、慢性的な下痢、腹痛、体の不調を訴えることもある。

●原因の多くは異常な体験

 原因としては、乳幼児期の何らかの異常な体験が引き金になることが多い。たとえば親自身
の情緒不安のほか、親の放任的態度、無教養で無責任な子育て、神経質な子育て、家庭騒
動、家庭不和、何らかの恐怖体験など。

ある子ども(五歳男児)は、たった一度だが、祖父にはげしく叱られたのが原因で、自閉傾向
(人と心が通い合わない状態)を示すようになった。また別の子ども(三歳男児)は、母親が入
院している間、祖母に預けられたことが原因で、分離不安(親の姿が見えないと混乱状態にな
る)になってしまった。

 ふつう子どもの情緒不安は、神経症による症状をともなうことが多い。ここにあげた体の不調
のほか、たとえば夜驚、夢中遊行、かん黙、自閉、吃音(どもり)、髪いじり、指しゃぶり、チッ
ク、爪かみ、物かみ、疑惑症(臭いかぎ、手洗いぐせ)、かみつき、歯ぎしり、強迫傾向、潔癖
症、嫌悪症、対人恐怖症、虚言、収集癖、無関心、無感動、緩慢行動、夜尿症、頻尿症など。

●原因は、家庭に!

 子どもの情緒が不安定になると、たいていの親は原因さがしを、外の世界に求める。しかし
まず反省すべきは、家庭である。

強度の過干渉(子どもにガミガミと押しつける)、過関心(子どもの側からみて神経質で、気が
抜けない環境)、家庭不和(不安定な家庭環境、愛情不足、家庭崩壊、暴力、虐待)、威圧的
な家庭環境など。夫婦喧嘩もある一定のワク内でなされているなら、子どもにはそれほど大き
な影響を与えない。が、そのワクを越えると、大きな影響を与える。子どもは愛情の変化には、
とくに敏感に反応する。

 子どもが小学生になったら、家庭は、「体を休め、疲れた心をいやす、いこいの場」でなけれ
ばならない。アメリカの随筆家のソロー(一八一七〜六二)も、『ビロードのクッションの上より、
カボチャの頭』と書いている。

人というのは、高価なビロードのクッションの上に座るよりも、カボチャの頭の上に座ったほう
が気が休まるという意味だが、多くの母親にはそれがわからない。わからないまま、家庭を「し
つけの場」と位置づける。学校という「しごきの場」で、いいかげん疲れてきた子どもに対して、
家の中でも「勉強しなさい」と子どもを追いまくる。「宿題は終わったの」「テストは何点だった
の」「こんなことでは、いい高校へ入れない」と。これでは子どもの心は休まらない。

●子どもの情緒を安定させるために

 子どもの情緒が不安定になったら、スキンシップをより濃厚にし、温かい語りかけを大切にす
る。叱ったり、冷たく突き放すのは、かえって情緒を不安定にする。一番よい方法は、子どもが
ひとりで誰にも干渉されず、のんびりとくつろげるような時間と場所をもてるようにすること。親
があれこれ気をつかうのは、かえって逆効果。

 ほかにカルシウムやマグネシウム分の多い食生活に心がける。とくにカルシウムは天然の
精神安定剤と呼ばれている。戦前までは、日本では精神安定剤として使われていた。錠剤で
与えるという方法もあるが、牛乳や煮干など、食品として与えるほうがよいことは言うまでもな
い。

なお情緒というのは一度不安定になると、その症状は数か月から数年単位で推移する。親が
あせって何とかしようと思えば思うほど、ふつう子どもの情緒は不安定になる。また一度不安
定になった心は、そんなに簡単にはなおらない。今の状態をより悪くしないことだけを考えなが
ら、子どものリズムに合わせた生活に心がける。

 (参考)

●子どもの神経症について
心理的な要因が原因で、精神的、身体的な面で起こる機能的障害を、神経症という。子どもの
神経症は、精神面、身体面、行動面の三つの分野に分けて考える。

?精神面の神経症……精神面で起こる神経症には、恐怖症(ものごとを恐れる)、強迫症状
(周囲の者には理解できないものに対して、おののく、こわがる)、不安症状(理由もなく悩
む)、抑うつ感(ふさぎ込む)など。混乱してわけのわからないことを言ってグズグズしたり、反
対に大声をあげて、突発的に叫んだり、暴れたりすることもある。

?身体面の神経症……夜驚症(夜中に狂人的な声をはりあげて混乱状態になる)、夜尿症、
頻尿症(頻繁にトイレへ行く)、睡眠障害(寝ない、早朝覚醒、寝言)、嘔吐、下痢、便秘、発
熱、喘息、頭痛、腹痛、チック、遺尿(その意識がないまま漏らす)など。一般的には精神面で
の神経症に先立って、身体面での神経症が起こることが多く、身体面での神経症を黄信号とと
らえて警戒する。

?行動面の神経症……神経症が慢性化したりすると、さまざまな不適応症状となって行動面
に表れてくる。不登校もその一つということになるが、その前の段階として、無気力、怠学、無
関心、無感動、食欲不振、引きこもり、拒食などが断続的に起こるようになる。パンツ一枚で出
歩くなど、生活習慣がだらしなくなることもある。

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(2)子どもが欲求不満になるとき

●欲求不満の三タイプ

 子どもは自分の欲求が満たされないと、欲求不満を起こす。この欲求不満に対する反応は、
ふつう、次の三つに分けて考える。

?攻撃・暴力タイプ

 欲求不満やストレスが、日常的にたまると、子どもは攻撃的になる。心はいつも緊張状態に
あり、ささいなことでカッとなって、暴れたり叫んだりする。私が「このグラフは正確でないから、
かきなおしてほしい」と話しかけただけで、ギャーと叫んで私に飛びかかってきた小学生(小四
男児)がいた。

あるいは私が、「今日は元気?」と声をかけて肩をたたいた瞬間、「このヘンタイ野郎!」と私を
足げりにした女の子(小五)もいた。こうした攻撃性は、表に出るタイプ(喧嘩する、暴力を振る
う、暴言を吐く)と、裏に隠れてするタイプ(弱い者をいじめる、動物を虐待する)に分けて考え
る。

?退行・依存タイプ

 ぐずったり、赤ちゃんぽくなったり(退行性)、あるいは誰かに依存しようとする(依存性)。こ
のタイプの子どもは、理由もなくグズグズしたり、甘えたりする。母親がそれを叱れば叱るほ
ど、症状が悪化するのが特徴で、そのため親が子どもをもてあますケースが多い。

?固着・執着タイプ

 ある特定の「物」にこだわったり(固着性)、あるいはささいなことを気にして、悶々と悩んだり
する(執着性)。ある男の子(年長児)は、毛布の切れ端をいつも大切に持ち歩いていた。最近
多く見られるのが、おとなになりたがらない子どもたち。赤ちゃんがえりならぬ、幼児がえりを起
こす。

ある男の子(小五)は、幼児期に読んでいたマンガの本をボロボロになっても、まだ大切そうに
カバンの中に入れていた。そこで私が、「これは何?」と声をかけると、その子どもはこう言っ
た。「どうチェ、読んでは、ダメだというんでチョ。読んでは、ダメだというんでチョ」と。子どもの
未来を日常的におどしたり、上の兄や姉のはげしい受験勉強を見て育ったりすると、子どもは
幼児がえりを起こしやすくなる。

 またある特定のものに依存するのは、心にたまった欲求不満をまぎらわすためにする行為と
考えるとわかりやすい。これを代償行為というが、よく知られている代償行為に、指しゃぶり、
爪かみ、髪いじりなどがある。別のところで何らかの快感を覚えることで、自分の欲求不満を
解消しようとする。

●欲求不満は愛情不足

 子どもがこうした欲求不満症状を示したら、まず親子の愛情問題を疑ってみる。子どもという
のは、親や家族の絶対的な愛情の中で、心をはぐくむ。ここでいう「絶対的」というのは、「疑い
をいだかない」という意味。

その愛情に「ゆらぎ」を感じたとき、子どもの心は不安定になる。ある子ども(小一男児)はそれ
までは両親の間で、川の字になって寝ていた。が、小学校に入ったということで、別の部屋で寝
るようになった。とたん、ここでいう欲求不満症状を示した。その子どものケースでは、目つき
が鋭くなるなどの、いわゆるツッパリ症状が出てきた。

子どもなりに、親の愛がどこかでゆらいだのを感じたのかもしれない。母親は「そんなことで…
…」と言ったが、再び川の字になって寝るようになったら、症状はウソのように消えた。

●濃厚なスキンシップが有効

 一般的には、子どもの欲求不満には、スキンシップが、たいへん効果的である。ぐずったり、
わけのわからないことをネチネチと言いだしたら、思いきって子どもを抱いてみる。最初は抵抗
するような様子を見せるかもしれないが、やがて静かに落ちつく。あとはカルシウム分、マグネ
シウム分の多い食生活に心がける。

 なおスキンシップについてだが、日本人は、国際的な基準からしても、そのスキンシップその
ものの量が、たいへん少ない。欧米人のばあいは、親子でも日常的にベタベタしている。よく
「子どもを抱くと、子どもに抱きグセがつかないか?」と心配する人がいるが、日本人のばあ
い、その心配はまずない。

そのスキンシップには、不思議な力がある。魔法の力といってもよい。子どもの欲求不満症状
が見られたら、スキンシップを濃厚にしてみる。それでたいていの問題は解決する。

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(3)子どもが分離不安になるとき

●親子のきずなに感動した!?     

 ある女性週刊誌の子育てコラム欄に、こんな手記が載っていた。日本でもよく知られたコラム
ニストの書いたものだが、いわく、「うちの娘(三歳)をはじめて幼稚園へ連れていったときのこ
と。娘ははげしく泣きじゃくり、私との別れに抵抗した。私はそれを見て、親子の絆の深さに感
動した」と。

そのコラムニストは、ワーワーと泣き叫ぶ子どもを見て、「親子の絆の深さ」に感動したと言うの
だ。とんでもない! ほかにもあれこれ症状が書かれていたが、それはまさしく分離不安の症
状。「別れをつらがって泣く子どもの姿」では、ない。

●分離不安は不安発作

 分離不安。親の姿が見えなくなると、発作的に混乱して、泣き叫んだり暴れたりする。大声を
あげて泣き叫ぶタイプ(プラス型)と、思考そのものが混乱状態になり、オドオドするタイプ(マイ
ナス型)に分けて考える。

似たようなタイプの子どもに、単独では行動ができない子ども(孤立恐怖)もいるが、それはと
もかくも、分離不安の子どもは多い。四〜六歳児についていうなら、一五〜二〇人に一人くら
いの割合で経験する。親が子どもの見える範囲内にいるうちは、静かに落ちついている。が、
親の姿が見えなくなったとたん、ギャーッと、ものすごい声をはりあげて、そのあとを追いかけ
たりする。

●過去に何らかの事件

 原因は……、というより、分離不安の子どもをみていくと、必ずといってよいほど、そのきっか
けとなった事件が、過去にあるのがわかる。はげしい家庭内騒動、離婚騒動など。母親が病
気で入院したことや、置き去り、迷子を経験して、分離不安になった子どももいる。

さらには育児拒否、冷淡、無視、親の暴力、下の子どもが生まれたことが引き金となった例も
ある。子どもの側からみて、「捨てられるのでは……」という被害妄想が、分離不安の原因と考
えるとわかりやすい。

無意識下で起こる現象であるため、叱ったりしても意味がない。表面的な症状だけを見て、「集
団生活になれていないため」とか、「わがまま」とか考える人もいるが、無理をすればかえって
症状をこじらせてしまう。いや、実際には無理に引き離せば混乱状態になるものの、しばらくす
るとやがて静かに収まることが多い。しかしそれで分離不安がなおるのではない。「もぐる」の
である。一度キズついた心は、そんなに簡単になおらない。この分離不安についても、そのつ
ど繰り返し症状が表れる。

●鉄則は無理をしない

 こうした症状が出てきたら、鉄則はただ一つ。無理をしない。その場ではやさしくていねいに
説得を繰り返す。まさに根気との勝負ということになるが、これが難しい。現場で、そういう親子
を観察すると、たいてい親のほうが短気で、顔をしかめて子どもを叱ったり、怒ったりしている
のがわかる。「いいかげんにしなさい」「私はもう行きますからね!」と。

こういう親子のリズムの乱れが、症状を悪化させる。子どもはますます強く被害妄想をもつよう
になる。分離不安を神経症の一つに分類している学者も多い(牧田清志氏ほか)。

 分離不安は四〜五歳をピークとして、症状は急速に収まっていく。しかしここに書いたよう
に、一度キズついた心は、簡単にはなおらない。ある母親はこう言った。「今でも、夫の帰宅が
予定より遅くなっただけで、言いようのない不安発作に襲われます」と。姿や形を変えて、おと
なになってからも症状が表れることがある。

(付記)

●分離不安は小児うつ病?

子どもは離乳期に入ると、母親から身体的に分離し始め、父親や周囲の者との心理的つなが
りを求めるようになる。自我の芽生え、自立心、道徳的善悪の意識などがこの時期に始まる。
そしてさらに三歳前後になると、母親から心理的にも分離しようとするが、この時期に、母子の
間に問題があると、この心理的分離がスムーズにいかず、分離不安を起こすと考えられてい
る(クラウスほか)。小児うつ病の一形態と考える学者も多い。症状がこじれると、慢性的な発
熱、情緒不安症状、さらには神経症による諸症状を示すこともある。

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(4)基底不安

心を許さない子ども

 無視、冷淡、親の拒否的態度は、子どもに深刻な影響を与える。乳幼児期に、心のさらけ出
しができないため、親のみならず、他人と良好な人間関係を結べなくなる。子どもは、絶対的な
信頼関係のある親子関係の中で、心をはぐくむことができる。「絶対的な信頼関係」というの
は、どんなことをしても、また何をしても、許されるという信頼関係である。親に対して疑いをい
だかない安心感をいう。

 この信頼関係が欠落すると、子どもは絶対的な安心感を得られなくなり、不安を基底とした
心理状態になる。これを「基底不安」というが、その不安を解消しようと、子どもはさまざまな方
法で、心を防衛する。?服従的態度(ヘラヘラとへつらう)、?攻撃的態度(威圧したり、暴力で
相手を屈服させる)、?回避的行動(引きこもる)、?依存的行動(同情を求める)などがある。
これを「防衛機制」という。

 このタイプの子どもは、孤独と不安を繰りかえしながら、そのつど相手を求めたり、拒絶した
りする。まさに「近づけば遠ざかり、遠ざかれば近づく」の人間関係をつくる。本人はそれでよい
としても、困惑するのは、周囲の人たちである。あるときはベタベタと近づいてきたかと思うと、
つぎに会うと、一転、冷酷な態度をとったりする。親しみと憎しみ、依存と拒絶、密着と離反、親
切と不親切が、同居しているように感ずることもある。

 が、悲劇はつづく。

 他者とのつながりがうまく結べない分だけ、独善的、独断的な行動が多くなる。一見すると主
体的な生き方に見えるかもしれないが、その主体そのものがない。私の印象に残っている女
の子(中二)に、Bさんという子どもがいた。

 Bさんは、がんばり屋だった。能力的には、それほどでもなかったが、そのため勉強も、よくで
きた。親は、そんなBさんを、よくほめた。先生も、ほめた。とくに気になったのは、融通(ゆうづ
う)がきかなかったこと。ジョークを言っても、通じない。このタイプの子どもは、自分だけのカラ
に閉じこもりやすく、がんこになりやすい。

 そのBさんが、ここに書いた、決して心を許さないタイプの子どもだった。そのときまでに、す
でに私のところへ五、六年、通っていたが、いつも心を風呂敷で包んだような感じがした。俗に
いう「いい子」ではあったが、何を考えているか、よくわからなかった。

 決して勉強が好きというわけではなかった。しかしBさんにとっての勉強は、まさに自己主張
の道具だった。(勉強ができる)=(優秀であるという証明)=(みなにチヤホヤされる)というよ
うに、である。ここにも書いたように、一見、主体性があるようで、どこにもない。Bさんは、いつ
も自分の評価を他人の目の中でしていた。

 もうおわかりかと思う。このBさんが、とっていた一連の行為は、自分の心の中の不安を解消
するためであった。勉強という手段を用いて、他人に対して優位に立つことにより、自分にとっ
て居心地のよい世界を、まわりに作るためであった。先にあげた防衛機制の中の、?攻撃的
態度の一つということになる。

 Bさんは、勉強がよくできる分だけ、孤独だった。友だちもいなかった。しかも自分より目立つ
仲間は、すべてライバルだった。Bさんの前で、ほかの子どもをほめたりすると、嫉妬心から
か、Bさんは、よく顔をしかめた。が、そのBさんが、ある日、とうとう勉強でつまずいてしまっ
た。最初は「勉強がわからない」と、よくこぼした。つぎに数か月先のテストのことを心配したり
した。親はBさんに頼まれるまま、進学塾をもう一つふやし、家庭教師もつけた。しかしそうす
ればするほど、Bさんの勉強は空回りをし始めた。

 とたん、Bさんは、プツンしてしまった。ふつうの燃え尽き症候群と違うのは、無気力症状は出
てこないこと。別の形で、攻撃的になるということ。Bさんのケースでは、そのまま、本当にあっ
という間に、非行の道へ入ってしまった。髪の毛を染め、ツメにマニキュアをし、そしてあやしげ
な下着を身につけるようになった。と、同時に、私の教室をやめた。しばらくしてから、ほかの
子どもたちに、Bさんが、学校でも札つきのワルになったという話を聞いた。

 Bさんを知る、ほかの母親たちは、こう言う。「えっ? あのBさんが、ですか?」と。実のとこ
ろ、この私ですら、その変化に驚いたほどである。授業中でも、先生を汚い言葉で罵倒(ばと
う)して、部屋から出て行くこともあるという。

 ……では、どうするかということではない。あなたの子どもは、だいじょうぶかということ。あな
たの子どもは、乳幼児のとき(二〜四歳の第一反抗期)から、あなたに対して、好き勝手なこと
をしていただろうか。わがままというのではない。言いたいことを言い、したいことをしたかとい
うこと。もしそうなら、それでよし。しかし乳幼児のとき、どこかおとなしく、仮面をかぶり、手がか
からない子どもだったとしたら、ここでいう「心を許せない子ども」を疑ってみたらよい。そして今
は、その「いい子」かもしれないが、そのうちそうでなくなるかもしれないと、警戒をしたほうがよ
い。

 心の問題は、簡単にはなおらない。なおらないが、警戒するだけでも、仮に問題が起きたとき
でも、原因がわかっているから、対処しやすいはず。またあなたの子どもが〇〜二歳であるな
ら、これからの反抗期を、うまく通り過ぎることを考える。この時期は、子どもの心を形成すると
いう意味で、きわめて重要な時期である。

++++++++++++++++++++++

【YNさんへ】

 いただいたメールの範囲内で判断するかぎり、下の子どもが生まれたあたりから、欲求不満
が慢性的に累積し、それが不安の原因になっているように思われます。症状としては、集団恐
怖症、対人恐怖症などが疑われますが、もう一歩進んで、小児神経症もしくは、小児うつ病(ド
クターによっては、小児うつ病はないと主張する人もいます)なども、どこかで考えながら、対処
しなければならないと思います。もちろんこれは最悪のばあいです。

 一つ、疑われるのは、その先生との関係です。どこかで大きなショックを、子どもに与えた可
能性も否定できません。先生が、強く叱ったとか、など。「先生を見ておお泣きした」、しかし「そ
の先生のそばを離れない」という、どこか矛盾した行動は、子どもの世界では、よく見られる現
象です。

 たとえばイヤなもの、嫌いなものを、逆に受け入れることによって、表面的には、好きになっ
たようなフリをする。心の中に、まったく正反対の感情を移入するわけです。これを「反動形成」
といいますが、よく知られた例としては、下の弟や妹に対して、表面的には、いい兄や姉を演じ
て見せるケースがあります。

 それ以前の問題としては、基底不安も疑われます。つまりは、YNさんという母親と、その子ど
もの関係です。全幅の信頼関係が、結ばれていたかという問題ですが、これについては、いた
だいたメールの範囲では、よくわかりません。ここでは、そうした信頼関係については、問題な
いという前提で考えます。

 YNさんは、子どもの悪夢について心配していますが、私の調査でも、約五〇%の子ども(年
長児)が、ほとんど毎日、こわい夢を見ていることがわかっています。ただYNさんのお子さんの
ように、「こわい夢を見るから、昼寝をするのがいや」というケースは、珍しく、それだけ、心が
緊張(不安)状態にあるとみます。

 ふつう子どもが悪夢を見るようになったら、(またそう感じたら)、スキンシップを濃厚にし、添
い寝などをしてやります。「気のせい」「わがまま」と突き放せば、かえって子どもの情緒は不安
定になりますから、注意してください。

 ついでに、このタイプの子どもに、「がんばれ!」式の励ましは、タブーですから、ご注くださ
い。言うべきことは、「あなたは、よくがんばっている」式の、ねぎらいの言葉です。これについ
ては、またいつか電子マガジンのほうでとりあげて考えてみます。

 「夏休みあけに症状が軽減した」ということですので、症状は、それほど、こじれていないと判
断できます。しかしながら、この種の問題は、「以前のほうが、まだ症状が軽かった……」という
ことを繰りかえしながら、悪化することがありますので、これも、ご注意ください。

 とくに注意しなければならないのが、小児神経症です。ほかに、身体的な変調を訴えていな
いかを、観察してみてください。腹痛、頭痛、夜尿、爪かみなど。(あとで、原稿を添付しておき
ます。)

 もしこうした症状があわせて見られたら、とにかく家庭では、心を休ませることだけを考えて対
処します。「暖かい無視」という言葉が、最近よく使われますが、子どもを、暖かい愛情で包み
ながら、子ども自身がひとりで、のんびりとくつろげる環境を用意してあげます。

 が、それでも症状が悪化するようであれば、私は、無理をして幼稚園へ行かせる必要はない
と思います。それはYNさんが、ご自分で、判断してください。

 とりあえずしてみることは、

(1)濃厚なスキンシップの復活……下の子が生まれると同時に、上の子どもへの接触が半減
したと考えられます。親からみれば、「平等」ということになりますが、上の子には、そうではな
いということです。これについては、たびたび電子マガジンでとりあげてきましたので、ここで
は、省略します。添い寝、手つなぎ、だっこ、いっしょの入浴など、子どもの心から緊張感がと
れるまで、つづけます。

(2)食事面での対処……不安定に感じたら、CA、MGの多い食生活に切りかえます。要する
には、海産物主体の食生活にするということです。甘い食品、肉類、リン酸食品などは、ひかえ
ます。

(3)なおそうと思わないこと……この種の問題は、「なおそう」とは思わないこと。「今の状態
を、より悪くしないこと」だけを考えて対処します。親は、どうしても、今の状態だけをみて、「最
悪」と考えがちですが、この種の問題には、その下に、さらに二番底、三番底があるということ
です。じゅうぶん、ご注意ください。

(4)半年単位で様子をみる……そのつどの症状の変化に、一喜一憂してはいけません。もう
少し長いスパンで、子どもの心の変化を観察しながら、判断します。できれば「半年前はどうだ
った……」「一年前はどうだった……」というように、です。そのつどの変化に振り回されている
と、子どもの心の状態がわからなくなります。ほとんどの親は、「少しよくなった……」と言って
は、つぎの無理をする。そして症状をこじらせ、悪化させていきます。

 いただいたメールだけでは、お子さんが、どういう状態なのか、よくわかりません。かといっ
て、私の立場では、診断することもできません。ここに書いたことは、あくまでも、参考意見とし
て、お考えください。あとは、あなた自身が、判断してください。

 このあたりが、私が今、あなたにアドバイスできる限界かと思いますので、今日は、このあた
りで失礼します。また何か、あれば、メールをください。
(031103)
 
+++++++++++++++++++++

【参考】子どもの神経症(中日新聞発表済み)

子どもの神経症

 心理的な要因が原因で、精神的、身体的な面で起こる機能的障害を、神経症という。脳の機
能が変調したために起こる症状と考えると、わかりやすい。ふつう子どもの神経症は、?精神
面、?身体面、?行動面の三つの分野に分けて考える。そこであなたの子どもをチェック。次
の症状の中で思い当たる症状(太字)があれば、丸(○)をつけてみてほしい。

 精神面の神経症……精神面で起こる神経症には、恐怖症(ものごとを恐れる。高所恐怖症、
赤面恐怖症、閉所恐怖症、対人恐怖症など)、強迫症状(ささいなことを気にして、こわがる)、
不安症状(理由もなく思い悩む)、抑うつ症状(ふさぎ込んだり、落ち込んだりする)、不安発作
(心配なことがあると過剰に反応する)など。混乱してわけのわからないことを言ったり、グズグ
ズするタイプと、大声をあげて暴れるタイプに分けて考える。ほかに感情面での神経症として、
赤ちゃんがえり、幼児退行(しぐさが幼稚っぽくなる)、かんしゃく、拒否症、嫌悪症(動物嫌悪、
人物嫌悪など)、嫉妬、激怒などがある。

 身体面の神経症……夜驚症(夜中に突然暴れ、混乱状態になる)、夢中遊行(ねぼけてフラ
フラとさまよい歩く)、夜尿症、頻尿症(頻繁にトイレへ行く)、遺尿(その意識がないまま尿もら
す)、睡眠障害(寝つかない、早朝起床、寝言、悪夢)、嘔吐、下痢、原因不明の慢性的な疾患
(発熱、ぜん息、頭痛、腹痛、便秘、ものもらい、眼病など)、貧乏ゆすり、口臭、脱毛症、じん
ましん、アレルギー、自家中毒(数日おきに嘔吐を繰り返す)、口乾、チックなど。指しゃぶり、
爪かみ、髪いじり、歯ぎしり、唇をなめる、つば吐き、ものいじり、ものをなめる、手洗いグセ
(潔癖症)、臭いかぎ(疑惑症)、緘黙、吃音(どもる)、あがり症、失語症、無表情、無感動、涙
もろい、ため息なども、これに含まれる。一般的には精神面での神経症に先だって、身体面で
の神経症が現われることが多い。

 行動面の神経症……神経症が行動面におよぶと、さまざまな不適応症状となって現われる。
不登校もその一つだが、その前の段階として、無気力、怠学、無関心、無感動、食欲不振、過
食、拒食、異食、小食、偏食、好き嫌い、引きこもり、拒食などが断続的に起こることが多い。
生活習慣が極端にだらしなくなることもある。忘れ物をしたり、乱れた服装で出歩いたりするな
ど。ほかに反抗、盗み、破壊的行為、残虐性、帰宅拒否、虚言、収集クセ、かみつき、緩慢行
動(のろい)、行動拒否、自慰、早熟、肛門刺激、異物挿入、火遊び、散らかし、いじわる、いじ
めなど。

こうして書き出したら、キリがない。要するに心と身体は、密接に関連しあっているということ。
「うちの子どもは、どこかふつうでない」と感じたら、この神経症を疑ってみる。ただし一言。こう
した症状が現われたからといって、子どもを叱ってはいけない。叱っても意味がないばかりか、
叱れば叱るほど、逆効果。神経症は、ますますひどくなる。原因は、過関心、過干渉、過剰期
待など、いろいろある。

 さて診断。丸の数が、一〇個以上……あなたの子どもの心はボロボロ。家庭環境を猛省す
る必要がある。九〜五個……赤信号。子どもの心はかなりキズついている。四〜一個……注
意信号。見た目の症状が軽いからといって、油断してはならない。

●子どもの問題・・・子どもに関する問題 ●親子の問題・・・親子に関する問題
●家庭の問題・・・夫婦家族に関する問題 ●その他・・・その他の問題


情報・画像の出展:はやし浩司先生

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