「できの悪い子どもほど、かわいい」 はやし浩司先生の育児・教育指導
昔から、『できの悪い子どもほど、かわいい』という。
それはその通りで、できのよい子どもほど、自分で勝手に成長していく。……成長してしまう。そのためどうしても親子の情が薄くなる。しかしできの悪い子は、そうではない。
I君(小2)は、そのできの悪い子どもだった。
言葉の発達もおくれ、その年齢になっても、文字や数にほとんど興味を示さなかった。
I君の父親は心やさしい人だったが、学習面でI君に無理を強いた。
しかしそれがかえって逆効果。
(無理をする)→(逃げる)→(もっと無理をする)の悪循環の中で、I君はますます勉強から遠ざかっていった。
時に父親はI君をはげしく叱った。あるいは脅した。
「こんなことでは、勉強におくれてしまうぞ」と。
そのたびにI君は、涙をポロポロとこぼしながら、父親にあやまった。
一方、父親は父親で、そういうI君を見ながら、はがゆさと切なさで身を焦がした。
「泣きながら私の胸に飛び込んできてくれれば、どれほど私も気が楽になることか。叱れば叱るほど、Iの気持ちが遠ざかっていくのがわかった。それがまた、私にはつらかった」と。
このI君のケースでは、母親がおだやかでやさしい人だったのが幸いした。
父親が暴走しそうになると、間に入って父親とI君の間を調整した。
母親はこう言った。「主人は主人なりに息子のことを心配して、そういう行動に出るのですね。息子もそれがわかっているから、つらがるのでしょう」と。
形こそ多少いびつだが、それも親の愛。
子どものできが悪いがゆえに燃えあがる、親の愛。その父親が私を食事に誘ってくれた。
私はその席で意を決して、父親にこう告げた。
「お父さん、もうあきらめましょう。お父さんががんばればがんばるほど、I君は、ますます勉強から遠ざかっていきます。心がゆがむかもしれません。しかし今ならまだ間にあいます。あきらめて、I君の好きなようにさせましょう」と。
そのとき父親の箸をもつ手が、小刻みに震えるのを、私は見た。
「先生、そうはおっしゃるが、このままでは息子は、ダメになってしまいます」
「しかしI君の顔から、笑顔が消えたら、どうしますか」
「私は嫌われてもいい。嫌われるぐらいですむなら、がまんできます。しかしこのまま息子が、落ちこぼれていくのには耐えられません」
「落ちこぼれる? 何から落ちこぼれるのですか」
「先生は、他人の子どもだから、そういうふうに言うことができる」
「他人の子ども? 実は私はその問題で、10年以上も悩んだのです。自分の子ども、他人の子ども、ということでね。しかし今は、もうありません。今は、そういう区別をしていません」
いかに子どものできが悪くても、子ども自身がもつ生命力さえ残っていれば、必ずその子どもは自立する。そして何10年後かには、心豊かな家庭を築くことができる。
しかし親があせって、その生命力までつぶしてしまうと、ことは簡単ではない。
一生ナヨナヨとした人間になってしまう。立ちなおるということは、たいへん難しい。
I君はそのとき、その瀬戸ぎわにいた。
はやし浩司先生の育児・幼児教育コーナー8
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【はやし浩司先生のプロフィール】
1947年岐阜県生まれ。
金沢大学法文学部法学科卒業。
日豪経済員会給費留学生として、オーストラリアメルボン大学ロースクール(法学院)研究生、三井物産社員、幼稚園教師を経て、浜松市にてBW(ブレイン・ワーク)教室、幼児研究所を設立。
独自の哲学・教育論をもとに幼児教育の実践を行っています。
現在は教育評論家として、ホームページやブログ、メルマガ、ユーチューブ等を利用しながら執筆活動に専念しています。
●著書に「子育て最前線のあなたへ」(中日新聞社)、「おかしな時代のまともな子育て論」(リヨン社・2002年3月発行)、「ドラえもん野比家の子育て論」(創芸社)など、30冊余り。
うち4冊は中国語にも翻訳出版されています。
「まなぶくん幼児教室」(学研)、「ハローワールド」(創刊企画・学研)などの無数の市販教材も手がけ、東洋医学、宗教論の著書も計8冊出版されています。
●教育評論家、現在浜松市伝馬町でBW教室主催。
●現在は、インターネットを中心に活動中。
メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞(08)、
電子マガジン読者数・計3000人(09)、ほか。
「BW公開教室」を、HP上にて、公開中。
(HPへは、「はやし浩司」で検索、「最前線の子育て論byはやし浩司」より。)
過去の代表的な著書
・・・などなど30冊余り出版されています。