要領

 

要領  はやし浩司先生の教育アドバイス

はやし浩司先生 
中学三年生のテストに、こんな問題が、出た。英語の質問に、英語で答えるという問題である。ここ五、六年、こうした問題が、急速にふえた。

(1)When is your birthday?(誕生日はいつですか)
(2)What sport do you like?(何のスポーツが好きですか)
(3)Do you like English?(英語が好きですか)
(4)What do you want to do next year?(あなたは来年、何をしたいですか)
(5)Do you come to school on foot or by bus?(あなたは学校へ歩いてきますか、それともバスで来ますか)

 このテストを受けてきた子ども(女子)がこう言った。「何も、書けなかった……」と。「白紙で出したのか?」と聞くと、「そう……」と。

 そこで理由を聞くと、こう言った。「私の誕生日は、二月。フェブルアリィ(二月)という単語を忘れてしまった。スポーツは、バレーボールが好きだけど、バレーボールという単語がわからなかった。英語は、好きなときもあるし、嫌いなときもある。話すのは好きだけど、書くのは嫌い。来年は、これといって、とくにしたことはない。それに私、毎朝、母に学校まで送ってきてもらっている。英語で何と書けばよいか、わからなかった……」と。

 私は、こう言った。

 「二月という単語がわからなければ、五月(May)と書けばよい」
 「バレーボールという単語がわからなければ、テニスと書けばよい」
 「英語が好きかと聞かれれば、はいそうですと書けばよい」
 「来年は、富士山へ登りたいと書けばよい」
 「学校へは歩いてくると、そのまま書けばよい」と。

 だから、答は、(My birthday is May 10th.)(I like tennis.)(Yes, I do.)(I want to climb Mt. Fuji.)(I come to school on foot.)となる。

 それに対して、その子どもはこう言った。「へえエ〜、私、五月生まれじゃ、ない。テニスは好きではない。英語も好きとは言えない。富士山なんか、登りたくない。それに学校へは歩いていかない」と。
 
 そこでさらに私は、こう言った。「あなたの英語の力で、『英語は好きなときもあるし、嫌いなときもある。話すのは好きだけど、書くのは嫌い』とは、書けない。だったら、どうして、Yes, I do.(はい、好きです)と書かないのか。それで丸がもらえる」と。

 「でも、それはウソになるでしょ! ウソは書けない」
 「ウソ? 英語は、バツでなければ、マル。何も、本当のことを書けという問題ではない。すなおに簡単に書いて、マルをもらえばよい」
 「誕生日は、二月で五月ではない」
 「たとえそうでも、そんなこと、学校の先生が、いちいち調べるとでも思っているのか。そんなことはしない。だったら、May(五月)と書いておけばいい。正直に二月と書く必要はない」

 ……と教えながら、当然のことながら、言いようのない矛盾が、私の心をふさいだ。しかししょせん、受験勉強などというのは、そういうもの。またそういうことが平気でできる子どもほど、よい成績をとる。要領といえば、要領。その要領のよい子どもが、有利。もっと言えば、受験指導など、教育ではない。だからそれを教えるのは、教師ではない。先生ではない。ただの指導者。

 しかしこの日本には、歴然とした受験競争がある。また好むと好まざるとにかかわらず、それが人間選別の関門になっている。要領が悪い子どもほど、つまり正直な子どもほど、この受験競争の世界では、不利。もちろんすべてがそうであるとは言えないが、しかしそういう面があることも否定できない。この子どものケースでも、何ともあと味の悪い指導になってしまったが、受験競争には、いつもそういうあと味の悪さがつきまとう。

 その子どもは、それからずっと、顔をふせたまま、何も言わなかった。私も、その子どもの気持ちがわかるので、何も言えなかった。気まずい沈黙だけが、最後までつづいた。

こうした受験競争をスイスイと通りぬけた人が、結局は、社会のリーダーになっていくというのは、悲劇的ですらある。たとえば高校時代、勉強しかしない、勉強しかできない、どこかおかしな子どもほど、スイスイと受験競争を通りぬけていく。中には、よい点をとるのが、趣味になっているような子どもすらいる。日本では、こういう子どもほど高く評価されるが、本当にそれでよいのか。あなたもそういう視点で、一度、受験勉強そのものをながめてみてはどうだろうか。



情報・画像の出展:はやし浩司先生

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【はやし浩司先生のプロフィール】

はやし浩司先生1947年岐阜県生まれ。

金沢大学法文学部法学科卒業。
日豪経済員会給費留学生として、オーストラリアメルボン大学ロースクール(法学院)研究生、三井物産社員、幼稚園教師を経て、浜松市にてBW(ブレイン・ワーク)教室、幼児研究所を設立。

独自の哲学・教育論をもとに幼児教育の実践を行っています。

現在は教育評論家として、ホームページやブログ、メルマガ、ユーチューブ等を利用しながら執筆活動に専念しています。

●著書に「子育て最前線のあなたへ」(中日新聞社)、「おかしな時代のまともな子育て論」(リヨン社・2002年3月発行)、「ドラえもん野比家の子育て論」(創芸社)など、30冊余り。

うち4冊は中国語にも翻訳出版されています。

「まなぶくん幼児教室」(学研)、「ハローワールド」(創刊企画・学研)などの無数の市販教材も手がけ、東洋医学、宗教論の著書も計8冊出版されています。

●教育評論家、現在浜松市伝馬町でBW教室主催。

●現在は、インターネットを中心に活動中。

メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞(08)、

電子マガジン読者数・計3000人(09)、ほか。

「BW公開教室」を、HP上にて、公開中。

(HPへは、「はやし浩司」で検索、「最前線の子育て論byはやし浩司」より。)

過去の代表的な著書

子育て格言ママ100賢1子育て格言ママ100賢子育て格言ママ100賢子育てはじめの一歩

子どもの心・100の育て方目で見る漢方診断クレヨンしんちゃん 野原家の子育て論子育てストレスが子どもをつぶす

ドラえもーん・野比家の子育て論 子育て最前線のあなたへ受験に克つ子育て法ポケモン・カルト―あなたの子どもがあぶない!

・・・などなど30冊余り出版されています。

はやし浩司先生のHP・ブログ

はやし浩司のホームページ はやし浩司先生のメインサイトです。
子育て・幼児教育など、先生が実践されてきた内容が凝縮されています。
きっと先生の優れた教育感、人間味溢れる魅力をお分かりいただけると思います。
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読者の相談ページや進学問題、パパママの子育て診断ページもあります。

最前線の子育て論byはやし浩司(メルマガ版) メルマガ版「最前線の子育て論byはやし浩司」は2007年10月、
60000誌の中で、TOP-ONEに評価され、2008年のメルマガオブザイヤーを受賞しています。

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主に先生の哲学者的な内容を見ることができます。
しかし、先生は博識ですね〜。
お孫様のかわいい画像と、日記、教育論を掲載しています。

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